書評『大学教授になる方法』:一般人はこの本に期待してはいけない

Kindle Unlimited に登録したところ,かなりたくさんの本が定額で読める.

  • 魅力的な本が少ない
  • 人気の本が含まれていない

などの問題が多少あるにせよ,もともと新刊ばかりを追い続けてるわけじゃない私にとって,なかなか興味深い本もあった.

その中で目に止まった本の一つが

「大学教授になる方法」

である.実は学生時代に読んだことがある本で,就職と同時に必要なくなり古本屋に処分した本です.

筆者の鷲田先生は,私の地元札幌のローカル番組でゲストコメンテーターとして出演してた.歯に絹着せぬ物言いは小気味よく,表裏のない性格のように見受けられた.北海道でNo.1の進学校である札幌南高校出身で阪大卒,そして札幌大学の教授(現在は名誉教授).地元ではエリート中のエリートである.

この本で筆者が言ってる「モラトリアム人生」とは,おそらく研究も教育もやる気がない低レベルの同業者たちを皮肉ったものであり,そんな人たちを批判することが本書の目的ではないかと思った.

はっきり言おう.「無資格」で教授になるのは一般人には無理

だから,この本の内容を真に受けないことが賢明である.たとえば,こんな記述がある.

大学教員の場合,弁護士や医者のように,国家試験ないしそれに準ずるような試験に受からなければ与えられないというような,れっきとした資格は必要としないのである.純形式的にいえば,いかなる学歴さえも必要としない,極端に言えば,義務教育を受けていなくてもなることのできる,無資格の世界なのである.

また,こんな記述もある.

異常な能力も,特別の資金も必要とせず,ただいくぶんかの労力を積み重ねさえすれば,大学教授になる方法は厳然としてあるのである.

この本が出版された20年前,私が学生の頃は確かに学部卒で,特に何も資格を持っていないご年配の助手の先生がいた.だけど,少なくとも今では,そして少なくとも私が事情をよく知っている「理系」の世界では(文系は知らない),無資格で大学教授になった人間などいない.そんなこと本気で信じない方がいい.

ちなみに最初に断っておくが,私は大学教員ではない.あくまで事情を知っている人間が客観的に述べた意見と思っていただきたい.

工学系の教授はほぼ例外なく博士である.今どき修士だと教授はおろか助教ですらなれない(厳密には「博士」は学位であって資格ではないが,そんな屁理屈を論じたところで意味がない).もちろん,無資格でも何か類い稀な業績があれば別である.例えば,

  • ノーベル化学賞受賞者,田中耕一(驚くべきことに田中氏は修士)
  • 世界的な建築家,黒川紀章
  • プログラム言語Rubyの開発者,まつもとゆきひろ

まぁ,ここまで言うと極端かもしれない.だけど,元事務次官,元大手企業CEO,元知事といった人物が無資格で教授になることは少なくない.無資格で教授になれるのは,その分野で類い稀な業績を残したこのような人たちと思った方がよい.なぜか?採用する側の立場で考えれば明々白々である.

博士取得者は世に溢れている.そんな有資格者たちではなく,あえて無資格者を採用するわけだから,飛び抜けた業績がないと採用する理由にならない.最終学歴が小学校卒だった田中角栄元総理がもし大学教員の職を希望していたら採用した大学は当然あっただろうし,そのことに何ら不思議はない.

法律上,大学教員に資格も学歴も必要とされていない理由はここにある.法律がそうだからといって,誰でもなれると誤解を与えてしまうような書き方は如何なものかと思う.

論文は剽窃し放題?身の破滅になります

そして,もう一つ.

「盗作」や「剽窃」が社会問題となり,摘発されるのは,相当に有名人の場合か,余りに露骨な場合だけである.

と述べているが,今の時代,Googleの検索機能が非常に高度化しており,それに加え,論文の類は学会の予稿集程度でもオンラインで公開されている時代である.盗作や剽窃は,有名人だけでなく誰でも簡単にバレます.たとえ自著であっても一部をコピペしたら問題になるような時代です.

「剽窃,盗作などし放題.研究業績などそんなもの.」

などと高をくくってるとトンデモないことになります.そもそも,バレるからダメ,バレないからいいなど,そんな価値観を持っていること自体教員としての資質に欠けませんか?もちろん,鷲田先生は剽窃などを推奨しているわけではなく,執筆当時の世の現状を述べただけです.だけど,

「あそこの店はよほどじゃないと万引きはバレません.だけどやったらダメですよ」

と言ってるようなものです.もしこの本に書かれていることをマトモに受け入れていたら身の破滅に繋がります.そんなに甘くないです.小保方氏がいい例です.学会は狭い世界.一度そのような話が広まると,この業界で生きていくことは不可能です.

それじゃどうすればいいのか?

簡単なこと.自分で書くしかありません.それが教授の仕事ですから.法律の知らない弁護士などいません.病気を知らない医師などいません.論文を書けない大学教授などいてはいけないのです.

辺境の大学に行きたいですか?

それと筆者は,辺境の地に勤めることの良さを訴えてます.

どこであるにせよ,待遇がいかなるものであるにしろ,大学なのである.まず,研究は出来る.教育はやり方次第ではうんと効果が上がる

今の時代,辺境の大学では定員割れが常態化しているところが多く,経営は風前の灯火.50代の教授でも年収400万円程度のところもあると言われてます.定員を少しでも埋めるために中国から留学生を大量に受け入れたりするケースも.

だけど,その留学生の本当の目的は就学ビザの取得.就労ビザはなかなか取れないので,就学ビザで日本にやってきて,1日も大学に通うことなく東京で違法就労しているのが実態なのです(フィクションではありません).そんな留学生たちが提出した本国の高等学校の卒業証明書はすべて偽造.もう滅茶苦茶な世界です.

さらに,学生たちのレベルの低さも問題.

このような辺境の大学しか入れない学生は,ほとんど無試験で入学しており,学習意欲などハナから皆無.学級崩壊は小学生だけの話ではなく,このような大学でも普通に起こってます.私があれこれ言うより,生の体験が書かれているこちらのページ↓をご覧ください.

大学教員公募についてのメモ

あまりにも悲惨すぎて言葉が出ません.これが大学教授の仕事だとすると,一体誰がなりたいと思うでしょうか?

もちろん,辺境の大学がすべてこのような状況ではありません.きちんと真面目に学んでいる学生もいるし,優秀な留学生を受け入れている大学もあるけど,入試の偏差値が低いところは辺境にあることが多い.少なくとも,そういう「傾向」はあるように思えます.

大学教員であれば,どんな環境であっても最低限研究はできるし自由な時間が持てる.そんなの幻想だと思った方がいいです.

まとめ

この本のタイトルから読者は何を感じるでしょうか?

「おれでも大学教授になれるんじゃないだろうか?」

そういう期待感です.特に最初の方のページで「義務教育を受けてない人が大学教授になれる」などと書かれていたら,自分だって可能なんじゃないかと思います.

こんな具合に,読者の期待を持たせるような記述を散見するけど,結局のところ,大学院を修了し,博士号を取得するのが一番ラクに大学教授になる方法です.

刺激的なタイトルや目次のキャッチコピーで目を惹きつけて「本をたくさん売り」,バカな同業者を「体良く批判する」.鷲田先生の2つの目的が叶った一冊と言えるでしょう.

最初の期待を裏切られた読者は,結局置いてけぼりにされたという印象をぬぐえません.