訳すことと理解することの違い

最近,特に思うのですが,若い同僚達が英文を読む際に根本的に間違えてる考え方があるのです.研究職のため,仕事柄,英語の論文を読むなど普通のことです.んで,若い同僚に渡した論文について「この前渡したあの論文だけど,どうだった?」と聞くと,

「大体のところは訳したので理解しました.あれは,.....」

大抵はこういう答え方をするケースが多いのですが,いつも私は違和感を感じます.彼らは日本語に訳して,訳した日本語の文章を読んで理解するというプロセスを踏んでいるのでしょう.だけど,それはかなり間違ったやり方です.

間違いとか言ってはいけないかもしれませんが,少なくともこのような方法だと論文を読む程度ならなんとかなりますが,会話になると全く歯が立ちません.だって,いちいち頭の中で訳していたのでは,会話のスピードについていけないからです.

そう,英語は日本語に訳せるから内容を理解出来ると思っている人があまりにも多い.だけど,実際は逆で,内容を理解出来るから日本語に訳せるのです.

直読直解の思考回路とは?

つまり,英語を英語のまま理解するということです.上級の英語力を有している人は,例外なくこのような思考回路で英語を理解してます.昔の日本の英語教育は訳すことが主流だったので,そのように考える人が多かったのも頷けますが,今だにそのように考える人が(若い世代でも)多いことに驚かされます.

では,英語を英語のまま理解するとは,いったいどういうことなのか?

私などが説明するより,半世紀以上も前から和訳主義に異を唱えて来た,受験英語指導の神様である伊藤和夫先生の「ビジュアル英文解釈」から引用したいと思います.Part I のセクション1で出て来る一番最初の英文です.

In the early days of the automobile, many people did not think very highly of it.

この英文の解釈方法として,以下のように説明しております.

ルール1(前置詞のついた名詞は文の主語になることが出来ない)をあてはめる.the early daysは前置詞 In の後だから主語ではない.the automobile は of のあとだから主語ではないと考えるのが出発点.
文頭の修飾語(=M)が終わり,主語が現れることをautomobileのあとのコンマが示します.「自動車の始めの時代には;自動車ができたばかりのころには」
many peopleが主語,did not think が主語を受ける動詞,つまり,熟語動詞です.think highly of は「...について高く考える」から ・・・(中略)・・・ 「...を重んずる;高く評価する」の意味で使います.この文全体は,「自動車ができたばかりのころには,多くの人はそれをあまり重視しなかった」です

結局,最後に和訳を述べてますが,これは訳すことを目的として和訳を述べているのではなく,自分の解釈が正しいかどうかの確認のために載せています.このようなプロセスで文頭からそのまま意味を解釈出来るようにするのが伊藤流.

意識的な学習から無意識な能力へ

少々,くどくて面倒な印象を持つかもしれませんが,それに対しては「英文解釈教室」のはしがきで伊藤先生は以下のように述べています.

誰でも歩くことはできるが、歩くときの筋肉の動きを説明できる人は少ない。呼吸は生存に必須の要件であるが、そのメカニズムを解明できる人はまれである。 生活に必要な活動であればあるほど、その過程は無意識の底に沈んでいる。しかしこれらの生得の活動の場合とはちがって、幼児期を過ぎてからの外国語学習では、意識の底にやがては定着し知らず知らずに働くことになる頭の動きを一度は自覚し、組織的に学習することが必要である。

そして,あとがきには,このような学習法の最終的な目標として以下のように述べています.

本書の説く思考法が諸君の無意識の世界に完全に沈み、諸君が本書のことを忘れ去ることができたとき、「直読直解」の理想は達成されたのであり、本書は諸君のための役割を果たし終えたことになるであろう。

もし,和訳を通して英文を理解する癖がついてる人は,この直読直解という方法を試してみる価値が大いにあると思います.伊藤和夫先生の「ビジュアル英文解釈」と「英文解釈教室」,長文読解に関する2つの頂点とも言える教材をぜひともお試しいただければと思います.

なあんて,分かった風なこと言ってますが,私もすべてを完璧にしてるわけではないです.研究論文や英字新聞程度であれば,いちいち訳さないで理解出来ますが,「英文解釈教室」のレベルにはまだまだ到達してません・・・・頑張ります.

 

両書とも受験参考書の分類なので,ボリュームの割りには値段が安いです.安直に作られているTOEICや英検参考書などを買うよりはるかに力がつくと思います.