情報処理「博士課程進学のメリット・デメリット」への批評:超エリートの体験は参考にならない人が多いのでは?

情報処理学会の今月号の特集の1つに

「博士課程進学のメリットデメリット」

があった.編集者の前書きには,

大学学部生,修士学生のみならず,現役博士課程学生や企業に勤めている人,博士課程進学に悩んでいる学生を持つ先生方,などを想定読者として企画しました.

とありました.ふむ,なかなか期待できそうな内容です.

大学院博士課程を修了して活躍している人と,博士課程に入学した社会人が「博士課程に進学するメリットとデメリット」について,自身の体験をもとに書いたコラムを集めたものです.

で,読んでみたんですけど,あらまぁ・・・・(苦笑)

多様なキャリアパスがあることが読者に伝わるよう

と前書きに書いてあるけど,執筆者の方々の経歴をみるとMIT,東大,慶応,早稲田??? しかも,東大が5人,慶応3人,早稲田3人.他にも,神戸,奈良先端,阪大,筑波,お茶の水といった日本を代表する錚々たる大学.だから,当然だけど勤め先もIBM基礎研,ソニーCSL,三菱電機先端技術総研などの大手企業の研究所に勤めている.まさに,エリート中のエリート.

ぶっちゃけ言いましょうか・・・

国立大学だけでも全国に90近くあります.私大は600ほどあります.すべての大学に博士課程があるわけではないですが,それらの大学の博士課程修了者の勤務先として,こんなエリート企業に勤めている人は少ないです.中小企業のエンジニア,地方の国公私大の教員,都道府県の公設試験場の研究員,あとは高校教員や専修学校教員などでしょうか・・・.そのような勤め先の方がむしろ一般的です.

つまり,この特集記事で紹介された人たちはごくごく一部の超エリートということです.学生たちがこういう超エリートの人たちの体験談を読んで,夢や希望を持ってがんばろうと思えるのであれば全然問題ないです.だけど,多くの学生にとっては,むしろレベルが高すぎて参考にならないのではないでしょうか?

もっと普通レベルの人でも,博士を取得して社会で活躍している人が大勢います.そういう人たちの体験談の方がむしろ学生の参考になるのでは?

博士課程に進学する頃には20代後半になっています.夢を追いかけるのはいいですが,非現実的な夢を追いかけるような年齢ではありません.夢を抱きつつ,より現実的なライフプランも併せて考えたい.それが多くの学生の本音ではないかと思います.

大学受験情報誌と同じ考え方

このことは,私が昔読んだことのある大学受験情報誌と全く同じような気がしました.

私が受験生だった頃はインターネットなどなかった時代で,大学受験の情報を得るのは雑誌くらいしかありませんでした.そのような受験情報誌には,大学に合格した人たちの受験対策の方法などが掲載されてましたが,ほとんどが旧帝大有名私大を合格した人たちばかりで,

  • 「あまり勉強しなくても合格した」
  • 「自分では満足のいく出来じゃなかったんだけど合格した」
  • 「もっと上(東大京大)を狙って浪人してもよかった」

結局そういう話になってることが多かったです.「こんな話役に立つかよ!」と思いましたね.

そりゃそーです.

勉強しないで大学受験に成功するエリートなんてほんの一握り.そんな超秀才たちがやっている勉強法を,普通の頭しか持っていない私が真似たって上手くいくはずがないのです.イチローの振り子打法を普通のバッターが真似ても,ヒットを量産できるようにはなりません.

結局は読者層を考えてない

学会誌の編集は有名大学の先生方がするでしょうから,担当する先生方だって超エリート.一般の読者層をあまり意識しておらず,自分の感覚だけで執筆者を選定したのかなと予想します.

学会誌が一部のエリートのためだけの情報誌という位置付けなら,大多数の学生会員は就職したらみんな退会するでしょう.学生だけではありません.たとえば,今回の特集記事を示して

「将来こんな道が開かれるから,博士課程に進学して頑張ってみなさい」

と学生に助言できる先生がどれほどいると思いますか?地方の国公立大や私大だとほぼ無理です.

現状,どこの学会も会員数が減少し経営的な問題を抱えているはずです.今後,会員を増やし会費収入を増やしたいと本気で考えているなら,一般レベルの視点に立った記事や特集を心がけることが重要です.

アニメキャラで表紙を飾るより前に,もっと目を向けるべき事があるんじゃないでしょうか?