社会人が博士号を取得する no.1 ー 先ずは方法ー

まず,お断りしておくのは,私は工学系出身で修士卒だったという点です.

文学,医学,理学など分野によって取得の方法がかなり異なりますし,学部卒や博士課程退学の場合だと異なると思います.また,大学によっても大きく異なります.その点をあらかじめご承知ください.

今回は,博士を取得する方法を述べたいと思います,ルートは大きく2つあります.

課程博士(甲種):一般的なルート

1つ目は,大学院博士後期課程に入学し,3年間の在学期間中に主査となる教授から研究指導を受け,その間の研究業績をまとめた博士論文が審査で認められれば授与されるというもの.これを「課程博士(コースドクター)」と呼びます.社会人が博士号を取る場合,現在ではこちらの方が一般的です.ただし,以下が注意点です.

  • 多くの大学では入学料と授業料がかかる(地方の大学では,社会人博士課程に限り学費無料というところもある)
  • 3年間という期限があるので,この間で基準となる業績を残せないと単位取得退学となり,学費は払い損になる(博士後期課程の場合,単位取得退学はそんなに珍しいことではないので注意)

ただし,3年間で業績を残せず単位取得退学しても,その後1年以内だと学位申請が可能.また,途中で休学すればもっと在学期間を伸ばせるので,実質5年くらいにすることは出来る.だけど,あくまで裏技なので指導教員がOKすればという条件付き.

論文博士(乙種):日本独自のルートだがいずれ廃止

2つ目は,博士論文を執筆し,それを大学に提出して審査を受け,認められれば博士号が授与されるというもの.これを「論文博士(論博)」と呼びます.これは日本独自の制度であり,多くの大学で廃止の流れにあります.論博の注意点は以下です.

  • 博士論文を提出するまでの数年間,主査の教授の指導を受けながら研究業績を積まないといけません.その意味ではコースドクターと大差ありません.大学と全く縁もゆかりもない人がいきなり自前の博士論文を提出することは不可能です.
  • 入学するわけではないので,入学金や授業料は発生しませんが,申請時に審査料がかかる.
  • コースドクターのように3年間という年限がないので,博士申請に必要な研究業績の基準はコースドクターより厳しい

私は今の時代には珍しく論博で取得しました.学位授与式は9月でしたが,比較的論博が多いはずの9月でも取得者の1割に満たなかったと記憶してます.

また,論博の場合は審査料が必要です(コースドクターは不要).私の申請した大学では,卒業生は9万円くらいでしたが,そうでない場合は30万円近くかかるようです.幸い私は卒業生だったので9万で済みましたが・・・だけど,30万円と言っても,コースドクターの年間の授業料よりはるかに安いです.

取得に必要な研究業績は?

博士論文を執筆して,それを提出して審査されるという流れになりますが,この審査対象となる博士論文の内容がある程度のレベルに達していないと当然ながら落とされます.博士論文の中身なんですが,私は,

  • 第1章:全体の概論と研究の社会的背景
  • 第2章:研究テーマ1
  • 第3章:研究テーマ2
  • 第4章:研究テーマ3
  • 第5章:全体のまとめと今後の展開

という構成にしました.したがって,博士論文のレベルを決めるのは,第2章〜第4章の内容ということになります.

それで,博士号が認められる具体的な基準ですが,これは大学によって大きく異なります.たとえば,東大や京大は基準がないと言われています.理由は定かではありませんが,他のどんな客観的な研究業績より,東大や京大の教授がうんと言った業績の方が格上だという認識があるのでしょう.

最高学府の東大京大は極端な例としても,通常の大学では客観的な基準があります.普通は学術雑誌(ジャーナル)に掲載された論文数で基準化されています.私が取得した大学では,コースドクターの場合「原則2編」,論博の場合「3編」

両者にあまり違いがないように思えますが,原則2編というのは,1編は必須で,もう1編は権威ある国際会議プロシーディングスに掲載された論文でもOKらしいのです.実質的には1.5編といったところでしょう.

一方,論博の場合は国際会議論文を含めず「3編」が絶対条件でした.また,インパクトファクタの有無や和文英文の違いは特に条件なしでした.でも,大学や分野によっては,インパクトファクタをうるさく言ってくるところもあると思います.

私の場合,学術雑誌に採録になった3編の論文の内容をそれぞれ第2章,3章,4章として構成し,若干の実験結果と考察をさらに追加しました.博士論文は大体このような書き方でまとめる人が多いと思います.

取得してどんなメリットがあったのか?

目に見えるメリットとしては,給料が少し上がったこと,人事的なところで若干有利に働いたことくらいです.だけど,取得までにかかった費用(審査料だけでなく学会発表の旅費や参加費)を考えると,少しばかり給料が上がっても全くペイしないです.

さらに言えば,若干有利に働いたと言っても,それは私が研究職だからであって,通常のエンジニアだとほとんどメリットはないと思います.

だけど,通常のエンジニアでも,将来大学教員になることを考えているのであれば,博士を持っていて,なおかつ実務に顕著な実績があれば採用される可能性が高いと思います.今の時代,アカデミズムに偏った人間ばかりでなく,社会の各方面で活躍した人(ジャーナリスト,作家,アーティスト,通訳,高級官僚,システムエンジニアなど)を教員として採用したいと思っている大学が(特に私大では)多いと思います.

学生時代に博士課程に進学することは必ずしも将来の選択肢を広げることになりませんが,社会人であれば,博士号を取得することで逆に大学教授としての可能性も広がるわけです.これは悪くない話だと思います.

だけど,一部の首都圏の私大を除けば,民間企業とは比較にならないほど低い給料だと思いますので,その点はあらかじめご承知の上で(笑)