老子の「無為自然」は単なる処世術なのか?

シェアする

ビジネス書の売り場では,孔子や老子をネタにした人生哲学のようなものを書いた本を結構みかけます.基本的に私はそういう本は立ち読み程度で済ませることが多いのですが,今回は珍しく買ってしまいました.

著者は守屋洋.中国思想に基づいた自己啓発書をよく書いている人物.随分前だけど,この著者が書いた三国志を題材にした本を読んだことがあって,それがなかなか分かりやすくて面白かったという記憶がある.

読んだ感想としては,結局のところこの本は「処世術」として老子をどう解釈するかという論法ですね.読者層としてビジネスマンを想定してるでしょうから,それもやむなしかな.もちろん,だからこそとても分かりやすいとも言えます.

無為自然とは

無為自然とは,無気力に何もしないという意味ではなく,ことさら人為的なことをしない(無理はしない)という意味.そして筆者は,実力より先に自己アピールばかり先行して前のめりになっている最近の世の中を踏まえた上で,このように結んでいる.

無理は長続きしない.メッキはいつか剥がれるのである.それを承知のうえでやりたいと言うなら,なるべくさりげなくやってほしいものである.それがせめてもの「老子」流の生き方に近い道になるのかもしれない.

自己主張はほどほどにという事で「無為自然」の守屋流の話は終わっている.本当にそのとおりだなと思う.

老子はしたたかな処世術を述べた?

だけど,この本では紹介してないが,老子はこうも言っている.

  • 自分を是としないから,かえって人から認められる
  • 自分を誇示しないから,かえって人から立てられる
  • 自分の功績を誇らないから,かえって人から讃えられる
  • 自分の才能を鼻にかけないから,かえって人から尊ばれる

自己主張や自己顕示ばかりの人って必ず職場にいるものだけど,そういう人って総スカン食らうとますます意固地になって自己主張する.可哀想になってくるけどね(苦笑).

そういう人は論外としても,この老子の言葉は正しいし,とてもいい事を言ってるように思える.だけど,逆説的に考えると,

  • 自分を是としないふりをして,人から認められようとする
  • 自分を誇示しないふりをして,人から立てられようとする
  • 自分の功績を誇らないふりをして,人から讃えられようとする
  • 自分の才能を鼻にかけないふりをして,人から尊ばれようとする

と解釈することもできる.これにより,謙虚に見える行動は,したたかな処世術へと変貌する.こうなると狡猾な生き方だ.ムキになって自己主張や自己顕示を前面に出す人の方がまだ可愛げがある.こういう点までこの本では述べていない.

Laozi mural

真に「無為自然」な考え方を求めて

老子をただの「処世術」として捉えるのであればこれでよし.謙虚なふりをしていればいいのである.

だけど,無為や自然というのは「ふり」を勧めるだけの底の浅い思想なんだろうか?とてもそうは思えない.では,究極的にはどういう考えが「無為自然」と言えるのだろうか?

一つの考えとしては,「人から認められる」ことを最初から否定すれば,そもそも「ふり」をする必要はなくなる.つまり,

  • 人から尊ばれたくない
  • 人から認められたくない
  • 人から讃えられたくない

そう思えばよい.だけど,これで無為自然と言えるのだろうか?出家者や修道院で暮らす人たちはそうなのかもしれないが,普通の暮らしをしている我々にとって,これではただの世捨て人である.ではどう考えればよいのか?

私の勝手な解釈になるが,

  • 人から尊ばれない
  • 人から認められない
  • 人から讃えられない

そういう不遇な状況を自分から積極的に求めるわけではないが,たとえそうなっても「意に介さない」のが真に無為自然な姿ではないかと思う.つまり,

  • 認めらてもいいし,認められなくてもいい
  • 尊ばれてもいいし,尊ばれなくてもいい
  • 讃えられてもいいし,讃えられなくてもいい

だから,自分を誇示しないし,功績を誇らないし,才能を鼻にかけないのである.実力のある職人さんにこういう考えに近い人が多いような気がする.

そう考えると,無為自然の教えというのは,したたかな「処世術」ではなく,世捨て人を勧める思想でもなく,究極的には,世評に惑わされず物事に徹することなのかもしれない.

もちろん,それは仕事だけでなく趣味でもそうである.周囲から功績を認められたい,褒められたい,賞賛されたい.そういう欲望をゼロにするのは逆に不自然だが,それが主たる目的となっては本末転倒である.そういう意味なのではないか.

ある意味,ごく自然な(当たり前の)結論だが,真にこういう考え方で仕事をしている人は少なくとも同僚にはいないと思う.もちろん,私もそうである.

スポンサーリンク

シェアする

フォローする

スポンサーリンク